化学工業館
日本化学工業協会
化学と人生
分子構造を象徴する六角形を基本形とし、無数の分子の結合を思わせる銀色の屋根も六角形の組み合わせによって構成された。南側と東側の壁面はガラス壁で、通路からも館内の展示を見ることができた。
展示館は、鉄骨と一部鉄板を除いてすべて化学製品で造られた。屋根はメタクリン樹脂が主体で、一部鉄板張りであった。壁面はメラミン化粧板とガラス、床は塩化ビニール、芝はエチレン一酢ビ共重合体の人工芝、繊維類は全部ポリエステル、ナイロン、アクリロトリル繊維で、壁には、コンクリートのほかフォームスチレンが使用された。このように、建物自体が、最近開発された化学製品の展示となっていた。
現代人の日常生活は、衣食住の全般にわたって、化学工業と深い関わりをもっている。この化学工業の進歩と、化学工業と人間との調和が、三つのブロックに分けて展示された。
第 1 ブロックは、化学工業の発展を力強くうたいあげる「化学への賛歌」の場であった。館内のほぼ中央に、高さ 9メートル、幅 27メートルのひな壇状にせり上がった「化学の滝」と呼ばれる大壁面がそり立っていた。化学工業のコンビナート群や、フラスコ、試験管などを抽象化した色とりどりのパイプ煙突約 60 本を立て、その中からムクムクとわき出てくる白い泡の柱が、色々な形に変化しながら、青や赤の照明にいろどられて壁面を流れ落ちた。
またここには、化学を楽しむ実験コーナー「ケミカルプレイコーナー」があり、特殊な液に石ころを入れると見る見るうちに芽が出て茎が伸び、花が咲くケミカルガーデン、振ると透明な液が赤や青に変化するカラーマジック、温度によって色の変化する示温塗料などが展示された。
「分子構造のモビール」と呼ぶ展示は、視覚的に美しい分子構造のフォルムを、そのまま動くディスプレイとして点在させ、教育的な役割を果たした。
第 2 ブロックのアニメーション劇場は、化学工業への啓発を主とした第 1 ブロックに対し、動きと笑いのうちに化学の“こころ”を理解してもらおうという場であった。劇場は「化学の滝」の裏側にあり、正面と左右に三つのスクリーンが配置されていた。久里洋二のアニメーション、 3 面のスクリーン上を、あるときはバラバラに、あるときは一つになり、前後左右に移動した。化学反応が目に見えないところで進行してゆく状態が、動画というコマ落としの表現の中に映し出された。つまりマルチプルスクリーンによる実験といえるもので、 8 分間にわたって上映された。
第 3 ブロックは「味とお化粧」の場で、パウダールームとレストランの二つからなるレスト・スペースであった。パウダールームは専門の美容師によって美容相談が行なわれたおしゃれの部屋。レストランは展示館を出た小高い位置にあって、そこからは、横綱柏戸の植樹した3 本の大イチョウや化学製品の芝生、ケミカルガーデン、その北側に広がる人工池を見晴らすことができた。
(この館のプロデューサーは福島正雄であった)