アイ・ビー・エム館
日本アイ・ビー・エム株式会社
問題を解く人間像
敷地は、南端から北端に向かって 5 メートルほどの緩やかな傾斜地になっていた。南側の高い敷地に、辺 24メートル、高さ 14メートル 50 の立方体のアイ・ビー・エム劇場が、また北側には、一辺 36メートルの正方形の大天蓋(だいてんがい)におおわれたオープンステージが配置された。
劇場は外面が鏡面仕上げのアルミ板で覆われた窓のない建物で、黒一色に統一された大天蓋と落着いたコントラストを示していた。また敷地内には、 33 本のケヤキと 7 本の桜が植えられ、昼間は緑のアーケードを構成し、夜はこれらの木々に豆電球がつき、「星の木通り」と呼ばれ、万国博夜景の一つとして好評を博した。
展示は、映画を除いたすべてが大型コンピューター(IBM システム/360 モデル 50) 1 台を中心とした IBM システムによって操作、運営、制御されていた。観客は館内の様々な端末装置を使って、直接この大型コンピューターと交信できる仕組みになっていた。
大天蓋のついた野外展示場は「対話の広場」「アイデア・コーナー」「図形で語ろう」などのコーナーに分かれていた。
「対話の広場」では、自分の生まれた年には歴史的にどんな事件があったか、当時の人々はどんな風俗の中で生活していたか―コンピューターが人間の声を聞き分け、人間の声と変わらない音声で観客の質問に答えた。これは音声応答システムによる人間と機械の対話ショーで、司会者がマイクを通じて話すことば(観客の生年月日など約 30 語)を識別した。
「アイデア・コーナー」では、ひょうたん形のカウンターに IBM2760/2740 光学映像装置が 14 台配置されていた。観客は電子ペンを持ってこの装置に向かい、これらの装置と直結されているコンピューターを使って漫画のストーリーを自分で選んだり、旅行プランを作成したり、服飾デザイン、衣装の組み合わせなどのゲームを楽しんだりした。そして、観客一人一人の選択の記録が近くに設置した漢字印刷装置で直ちに印刷され、ゲームに参加した観客全員に手渡された。
「図形で語ろう」のコーナーには、テレビのブラウン管を持った端末装置、 IBM2250-2285 光学映像表示装置があり、宇宙旅行、スポーツ、高等数学などの分野での応用例を見せ、コンピューターの幅広い機能を紹介した。例えば、観客自身が映像表示装置の操縦かんで、宇宙船が月に着陸するまでの模擬操縦のできる「月旅行」をはじめ 1 万字以上におよぶ漢字の中から、観客の好みの 1 字を選んで、その漢字の起源から現在までの発展過程を解きあかす「漢字の起源」など、四つのゲームがあった。
野外展示場に続く「アイ・ビー・エム劇場」 では、動画「考える人間と三匹の鬼」が上映された。この映画は人類が難問を解決してきた歴史をわかりやすく紹介したもので、上映時間は約10分であった。スクリーンは 1 面だが、動画の途中で、カラースライドを併映した新しい映写テクニックが使われた。製作者は米国の動画界の第 1人者、ジョン・ハブレー、フェイス・ハブレー夫妻であった。
(この館のプロデューサーはハーブ・ローゼンタールであった)