虹の塔
日本専売公社
心の調和
「高く、美しい建物」という基本構想に基づいて計画された塔状建築で、弥生時代の銅鐸(どうたく)に似た円錐形の建物であった。高さは 68メートル65、地上 2階地下 1 階の鉄骨造で、内部は 3 層に分かれていた。
建物の外周には、40 センチメートル間隔に、長さ 4㍍のガードレール鉄板のヒレが縦に取付けられ、エレガントカラー(アルミ粉末入りラッカー)を吹きつけ、にじ(虹)色に塗り分けられていた。夜は明るい照明で塔が浮かび上がったように見えた。
また、塔の外、東西の両側には、400 平方㍍の池があり、東側の池には 3 万匹の金魚が放たれ、会場見物に疲れた観客に心のやすらぎを与えた。
館内に入るとまず「いこいの広場」。静かな音楽が流れるこの“静の世界”は、これから始まるショーヘのプロローグとしての役割を果たすスペースであった。壁面、天井を使った光りのディスプレイがあり、広場の中間には、たばこの「ピース」のシンボルであるハトのパターンを打ち抜いた 500 羽のハトのオブジェが浮かんでいた。
やがて中 2 階の 150 人乗り円形リフトに誘導され、観客が着席するとゆっくり上昇し、その上昇が止まるとそこがホールになっていて、団 伊玖磨作曲の「煙の音楽」とともに、頭上から煙の滝が降る「煙のショー」(構成・演出松山善三)が繰り広げられた。大壁面から吹き出る煙、床から打ち上げられる大小の煙の輪、頭上から降り注ぐ雲のような煙、これらはすべて生命を持っているように生き生きと演技した。これを追う色彩あざやかな光り、会場いっぱいに流れる横笛の美しい音色、風の音、琴の音などの音楽―煙はこれらに乗って、幻想的なドラマを展開した。
ショーは四つのシーンから構成されていた。第 1 シーンは煙の大滝と煙のモザイク。第 2 シーンは大小の煙の輪と電光サイン(アニメーション)。第 3 シーンは電光サインと煙のモザイク、煙の大滝と電光サイン、煙の輪。第 4 シーンは電光サインと煙のモザイク、アダムとイブ、煙の柱、フィナーレ(天空の雲)。煙はドライアイスを気化させたもので、このようなショーは世界でも初めての試みであった。
「煙のショー」が終わると、映像ショーを見るため、観客は正面にある半円形の観客席へ移った。その間、煙の音楽が続き、リフトは再び中 2 階へ下降する。一瞬の静寂のあと、今藤長十郎作曲の美しい邦楽のしらべが響きわたり、15 分間の「映像のショー」が展開された。縦 5メートル50、横 23メートルの3 面スクリーンに「風と光と土の中」という梅原龍三郎の筆になる題字が映し出され、日本の自然と芸能の美と、それを発見した日本人の心を探った計117 のシーンが観客の目を楽しませた。そして最後の 3分間、左手のスクリーンの前にステージがせり上がり、西川流、花柳流の名取りによる日本舞踊(西川鯉三郎振付)が披露され、映像と実在の人間の動きとをからみ合わせて、幻想的な効果をあげた。
「映像のショー」を見たあとは「休息の広場」へ。ここには、日本専売公社秘蔵のたばこに関する資料(総延べ出品数 190 点)が展示されていた。床にはカーペットを敷きつめ、30 脚のイスがゆったり並べられていた。
(この館のプロデューサーは松山善三であった)