せんい館
日本繊維館協力会
繊維は人間生活を豊かにする
建物のモチーフは創造的な若さのあふれる環境づくりをめざし、環境彫刻的、環境芸術的なものとして企画された。外観はスキーのジャンプ台のようなスロープによって構成され、その中央部にドームが突き出していた。このスロープは繊維が持つ特徴的な線である、なだらかな懸垂曲線を表わしていた。
中央ドームのまわりにはデコレーションとして建築工事用の足場を組み、作業服姿の人形 8 体を取り付け、完成へあと一歩の一時点を凍結した状態が表現された。これは建築の未完成の美の表現とともに、展示館と観客の対話をより密着させるための構想であった。
映像ドーム、展示回廊、ロビー人形と空間ディスプレイ、ファッションショーの展示部門に分かれた。
そのうち最大の呼びものは、スペース・プロジェクション(空間芸術)「アコ」と名づけた映像に、音や光りのショー、巨大な彫刻の女性像が重なる新演出であった。直径 15 メートル、高さ 20 メートルのドームの壁面に、女性像の彫刻が一定の流れに沿って取り付けられ、四方にスクリーンが張られていた。主演の若い女性の映像は、スクリーンの外にも飛び出し、彫刻と一体になって効果をあげた。音響スピーカー57 台は壁面や天井、床にも埋め込まれ、照明も上下、左右、前後から流れて、従来の映像方法とは違った感覚を体験することができた。ここでのねらいは、1970年代の青春のイメージや新しい衣環境のあり方などを、「アコ」と呼ぶ一人の若い女性の春夏秋冬に見立てて表現しようとするものであった。監督は松本俊夫。主演のアコは約300 人の応募者の中から選ばれた昭和25 年(1950年)生まれの女性であった。上映時間は約 15 分間。
展示回廊は建物の外周部に設けられ、北側(A 回廊)、南側(B 回廊)、西側(C、C′回廊)の四つの展示スペースに分かれていた。A 回廊は透明アクリル板による「せん」のグラフィカルな展示で、日本の伝統的な小紋と縞(しま)を 1 組 4 枚のアクリル板にシルク・プロセスしていた。B 回廊はカラーゴーラウンド「シルエットの変ぼう」。A 回廊の白黒の展示とは対照的にカラフルな展示で、アダムとイブの時代から 1970 年代までの衣服の流れが光りと動きでファンタスティックに表現された。C 回廊は「もしも繊維がなかったら」「もしも繊維に色がつけられなかったら」の設定で、内装材からインテリアに至るまで「白」で統一され、C′回廊は「カラフルワールド」と呼ばれ、C 回廊と同一の展示物に極彩色が施され、その相違が端的に表現されていた。
ロビー人形と空間ディスプレイは、山高帽子にフロックコートを着た老紳士の人形 20 体が、内蔵されたスピーカーによって語りかけたり、レーザー光線で“あやとり”をしてみせたりした。またロビー北西部の天井には21 羽の鳥の空中ディスプレイがあり、特殊照明で壁面やロビーに大乱舞の影を落としていた。
(この館のプロデューサーは工藤充であった。)